脂を先に焼く料理、ピカーニャ
まな板の上に置いた牛肉に、赤身より目立つ白い脂の層がある。日本の買い物では切り落としたくなる部分ですが、ブラジルのピカーニャ(picanha)では、ここを残して火にかけます。
ピカーニャは、英語圏で sirloin cap や coulotte と呼ばれる牛の臀部寄りの三角形の部位です。Beef. It’s What’s For Dinner.も、トップサーロインを覆う三角形の筋肉で、picanha とも呼ぶ部位として紹介しています。日本の精肉売り場では「イチボ」「ランプキャップ」と表示されることがありますが、店によって切り分けの基準は揃いません。
迷いが出るのは、脂をどこまで残すか、塩をいつ振るか、炭火がない家で何を諦めるかです。家庭では脂を1〜1.5cmほど残し、粗塩は焼く直前に当てます。炭火が使えないときは、厚手のグリドルで焼き色と火通りを分けます。
外側を薄く切り出し、残った塊をまた火へ戻す。焼けたところだけが次の皿へ移るので、肉が冷めにくい。ピカーニャは、ステーキを一度に焼いて終わる料理というより、食卓のそばで火と皿を往復させる料理です。

ピカーニャが手に入れば脂の層を味の軸にします。見つからなければ、脂のついたイチボかランプのブロックで代替できます。脂がほとんどない赤身肉を使う場合は、同じ食感にはならないので、薄切りにせず厚めに焼いてから繊維を断つことを優先してください。
ブラジルの食卓と、日本での割り切り
ブラジルの churrasco は、地域や家ごとに皿の形が変わります。ブラジルの研究機関 Fundação Joaquim Nabuco の英語資料では、南部と南東部の食卓に、炭火で焼いた肉やソーセージ、白いご飯、焼いたマンジョッカ粉、サラダ、パンが並ぶと説明されています。一方、北部や北東部では、マンジョッカそのものや粉が日常の料理に深く入ります。同資料の地域別の説明から見えてくるのは、ピカーニャだけを切り離すより、肉の皿に粉や酸味のある野菜を添えて食卓を組み立てる文化です。
焼き方にも幅があります。塊のまま串に刺して外側を切り出す方法があり、厚めの切り身を脂側が外になるように曲げて焼く方法もあります。ブラジルの家庭レシピでは、粗塩をまぶして休ませ、串に刺し、焼いた後に薄く切って再び網へ戻す流れが紹介されています。TudoGostosoのピカーニャ料理では、ファロファと白いご飯を添える食べ方も示されています。
今回は、日本の家で再現しやすいよう、900gの塊を4cm前後の厚い切り身にしてC形へ整える方法にしました。大串を回し続ける技術がなくても、脂が外側にある状態を保ち、焼けた断面を薄く切る流れを残せるからです。炭火の香りまで同じにはなりませんが、肉の厚みと脂の扱いは守れます。
炭火が使える家と、使えない家
屋外で炭火を使えるなら、これが第一候補です。灰をかぶった炭を片側へ寄せ、脂が落ちたときに肉を逃がせる場所を作ります。火の粉が上がる庭やベランダでは、住居の規約、換気、消火用の水を先に確認してください。
室内では、炭火の代わりに厚い金属面を使います。直火の香りは減りますが、脂を先に焼いて赤身を高温面へ移す操作は残せます。すでに鋳鉄フライパンや鉄板を持っているなら、専用の道具を買う必要はありません。これから厚切り肉や魚を何度も焼く人だけが、収納場所と手入れの手間を含めて検討すれば十分です。
カードを開く前に確認するのは、サイズと対応熱源です。買う条件は、炭火を使えず、厚切り肉の焼き面を確保したいこと。見送る条件は、同じ用途の鉄板を持っていること、煙を出せない住環境であること、収納場所がないことです。グリドルは炭火そのものの代用品ではなく、室内で焼き色と火通りを整えるための道具として考えます。
ファロファとヴィナグレッチで皿を完成させる
ファロファは、ブラジルで食べられてきたマンジョッカ粉を油脂で炒って作る乾いた付け合わせです。パン粉で代用すると香ばしさは作れますが、キャッサバ粉は粒が肉汁を受け、赤身の皿に軽い歯ざわりを足します。珍しい材料を増やしたくない日にはパン粉でよく、ピカーニャをもう一度作るつもりならキャッサバ粉を買う意味があります。
キャッサバ粉を選ぶときは、タピオカ粉や片栗粉ではなく、商品名に farinha de mandioca、manioc flour、cassava flour のいずれかがあるものを探します。リンク先で確かめる一点は、粉の種類と容量です。ファロファを4回ほど作れる乾物を常備したい人には向きます。一度だけ作り、代替のパン粉の食感で納得できる人は、無理に買わなくても構いません。
フライパンにベーコンを入れ、中火で4〜5分炒めます。脂が出て縁がカリッとしたらバター、玉ねぎ、にんにくを加え、玉ねぎの角が透き通るまで2〜3分炒めます。キャッサバ粉を加え、弱めの中火で5〜7分かき混ぜます。粉が湿った塊ではなく、へらを動かすとさらさら戻り、全体が薄いきつね色になったら火を止めます。余熱で色が進むので、濃くなる前に皿へ移してください。

ヴィナグレッチは、トマト、玉ねぎ、ピーマンを5mm角にそろえ、酢、オリーブオイル、塩、パセリを混ぜます。15分置くと玉ねぎの辛みが少し丸くなり、肉の脂を受ける酸味になります。肉を切ったまな板を使う場合は、必ず洗浄してから野菜を切ってください。
食べる順番と、残った肉の使い方
熱いファロファを皿の脇に盛り、薄切りのピカーニャを重ね、ヴィナグレッチを少量添えます。最初の一切れは塩と脂の香りだけで食べ、次に粉を少し乗せ、最後に酸味を足すと、どの付け合わせが必要だったかが分かります。全部をソースで覆うと、ピカーニャの焼き脂が見えなくなるので、最初から混ぜ切らないのがコツです。
残った肉は厚く切ったまま密閉し、早く冷まして冷蔵します。米国農務省の食品安全資料では、調理済みの残り物は冷蔵で3〜4日、冷凍で3〜4か月が目安とされています。Leftovers and Food Safetyの案内に沿い、室温に長く置いたものは保存せず、再加熱する分は中心まで熱くしてください。 翌日は、薄切り肉をパンに挟み、ヴィナグレッチを少し加えると昼食になります。ファロファは目玉焼きや豆ご飯へ振りかけてもよく、キャッサバ粉を一袋買った理由が一度きりになりません。脂が固まった肉を強火で長く温めると硬くなるので、弱めの火で温め、最後に表面だけ短く焼きます。
焼き上がりで迷ったとき
脂が白く残るなら、脂側をもう一度強火へ向けます。ただし、赤身を焼き続けると中心まで硬くなるため、脂の面だけを短く当て、必要なら切り分けてから再加熱します。
中心が生に近く、温度も足りないなら、切った後に無理に食べず、切り身を弱火側へ戻します。逆に焼き色が濃くなりすぎたときは、火のない場所で休ませてから切り、ヴィナグレッチの酸味とファロファの香ばしさで皿の重さを調整します。
よくある質問
ピカーニャが見つからないときは何を買えばよいですか?
「イチボ」「ランプキャップ」として脂の層が残るブロックを探します。ブラジルの部位説明では picanha を cap of rump とし、脂付きで串やグリルに向く部位としています。Centro de Referência da Pecuária Brasileiraは、脂を付けて調理し、食べるときに外してもよいと説明しています。脂がないランプを使うときは、焼く前の油よりも、厚さを保って短時間で焼くことを優先します。
脂は全部食べるものですか?
いいえ。脂は焼くために残し、食べる人が皿で外せるようにします。脂が厚すぎるときは、赤身を削らず、白い層だけを1〜1.5cmへ整えます。脂の下に硬い銀色の膜があれば、そこだけを浅く外します。
粗塩がないときは普通の塩で作れますか?
作れますが、同じ重さで置き換えないでください。細かい塩は表面に密着しやすいため、肉に振る量を半分ほどから始め、焼く前に味を見て追加します。できれば粒の大きい海塩を選び、焼いた後に余分な粒を落とす方法に戻してください。
炭火が使えないマンションではどうすればよいですか?
厚手のグリドルか鋳鉄フライパンで、脂側、赤身側の順に焼きます。室内で脂を強く焼けば煙は出るので、換気扇を回し、製品の使用場所と熱源の表示を確認してください。すでに鉄板を持っているなら新しく買わず、炭火の香りが出ないことを受け入れて作る方が合理的です。
中心がピンクでも食べられますか?
色だけでは判断しません。中心温度を測り、63℃に達した後3分休ませるという基準を満たしてください。高齢者、妊娠中の方、幼い子ども、免疫機能が弱っている方が食べる場合は、家庭の主治医や公的な食品安全情報も確認し、より十分な加熱を選びます。
ファロファはパン粉でも代用できますか?
できます。乾燥パン粉をベーコンやバターで炒れば、肉汁を受ける香ばしい付け合わせになります。ただし、キャッサバ粉のざらりとした粒感と、マンジョッカの風味は出ません。ファロファを主役の付け合わせとして再現したい人は、商品名と原材料を確認してキャッサバ粉を選びます。
あわせて作りたい料理
- シュラスコの作り方 - 部位を増やして炭火の食卓に広げるときに。
- ファロファの作り方 - キャッサバ粉の使い道を増やしたいときに。
- バイアォン・ジ・ドイスの作り方 - 肉の付け合わせを米と豆の一皿へ変えたいときに。











